伊勢型紙

日本の着物文化を支えてきた技術

伊勢型紙とは

伊勢型紙は、着物などの生地を染める際に使われる、和紙を手彫りした型紙です。千年以上の歴史があり、江戸時代には京都や江戸における着物の文化の発展とともに栄え、全国に広がり、今では国指定の伝統工芸品に指定されています。伊勢型紙の茶色い型地紙は、美濃和紙を柿渋(渋柿の果汁を発酵させたもの)で張り合わせて補強したあと、天日干し、室枯らし(むろがらし)を繰り返しながらつくられます。型地紙を作るのも職人仕事ですが、その型地紙に、彫りの職人が彫刻刀を巧みに使いながら作る型紙は、手仕事の限界を追求することで生まれる極限の美しさといえます。



伊勢型紙の一大産地、鈴鹿市白子

名古屋から特急列車に乗ること約40分、三重県鈴鹿市白子に到着します。白子駅から鈴鹿市伝統産業会館までの道のりは、古い建物と町を流れる川が続き、かつては白子に多くの職人が軒を並べ、水運を利用して伊勢型紙などを物流していた光景が目に浮かびます。最盛期と比べると工房の数は減少していますが、現在でも国内で流通する型紙のほとんどが鈴鹿市白子地区で作られています。伊勢型紙の発祥は諸説ありますが、三重県鈴鹿市・白子の子安観音寺にあるご霊木不断桜に、虫食いの葉があるのを見た人が、型紙を思いついたという伝説もあります。(写真:子安観音寺)


図案おこしに始まり、型紙づくり、染め作業へ

伊勢型紙は、図案師が図案を作るところから始まります。型紙の図案は彫った時に柄が落ちないように、1枚の紙として繋がっていないといけません。また染色時には、型紙を柄を繰り返しつなぎあわせながら、大きな反物を染めるため、柄がつながるような図案である必要があります。そのため、図案師がつくった図案をもとに、型紙職人が型紙用に図案を作り直し、図案を彫って型紙をつくります。できた型紙を使って、染色職人が友禅染めなどの染色を行いますが、染色も鍛錬された技術が必要となります。歴史的には、型紙職人と染色職人の技術の張り合いで、型紙の模様が細かくなっていったと言われています。

精巧な技術に潜む、手仕事のぬくもり

伊勢型紙の特徴は、やはり職人が手彫りで作る繊細な柄です。彫刻技法は、縞彫り、突彫り、道具彫り、錐彫りの4種類があり、技法ごとに彫刻刀も使い分けます。ほとんどの型紙職人は1つの技法を長年かけて彫刻技術を磨いていきます。シンプルな模様ほど難しく、写真のように定規と彫刻刃を使って均等に縞柄を彫る作業は、熟練の技術と卓越した集中力が必要とされます。目の焦点が変わらないよう同じ姿勢を保ったまま、長いときは8時間もひたすらに彫り続けます。手しごとの限界を追求して生まれる繊細さと、機械では表現できない線のぬくもりやゆらぎが、伊勢型紙の最大の魅力と美しさです。

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